NPO市民科学研究室 上田昌文 講演&ワークショップ 「ケータイ、スマホの『健康リスク』と『依存症』を考える」学習会報告
子どもたちへの深刻な心と体への影響に対し、大人が何とかしなくては!
甘い総務省の子どもに対する使用規制
今や、携帯電話やスマートフォン(スマホ)は高校生のほぼ全員、中学生の半分、小学生で3人に1人が所持しており、中でもスマホが急激に普及(高校生で約6割)しています。子どもたちが小さいときから電磁波を身近に浴びて育つ、かつてない時代になりました。講師の上田昌文さんからは、健康リスクだけでなく、特に「ケータイやスマホなしでは一時も過ごせない」状態に陥る、いわゆる依存症の問題について語っていただきました。
さまざまなデータから、中高生がメールやインターネットに生活時間を削り、通信を繰り返し、枕元にスマホを置いたまま「寝落ち」!の実態が統計でも浮かんできます。ある企業の調査では女子高生の1日の平均使用時間は6.4時間、6時間以上使用が4割を超えたとか。いたずらやトラブルも絶えないことは、電波行政を管轄する総務省でも把握していますが、規制はメーカー寄りでとても甘く、子どもへの使用制限もなされていません。電磁波の基準値や使用規制はEUなどの国々と比べてとても緩いものでした。
幼いころから高頻度・長時間・長期間の曝露環境で将来は…
健康上のリスクは、脳腫瘍リスクと精子損傷リスクが主に挙げられるそうです。子どもは頭がい骨が薄く脳が小さいため、電気伝導性や電波の透過性が大人より高いし、発達途中で細胞分裂も活発であり、脳腫瘍のリスクが高くなるそうです。長期間の男性の下腹部への携帯電話の電磁波の曝露状態(ズボンのポケットに入れっぱなし)では精子に影響を与えるという論文もあるそうです。幼いころから高頻度・長時間・長期間になれば、発症リスクがより高まると示唆している疫学研究もあるそうです。
しかし、深刻なのは、動きが少なく刺激が強いスマホ、ゲーム漬けで長時間、長期間過ごすことで孤立化し、携帯なしではいられなくなる状態に陥ることです。さまざまな運動や遊びなどの体験を積んで成長するべき大事な子ども時代であるべきなのに、負の影響が大きすぎます。
今の大人が「便利さ」だけを追求する社会、子どもたちが自然の中で遊ぶことの楽しさ、厳しさを体験できない環境を作ってしまいました。いまや教育現場でも導入が進んでいますし、セキュリティをうたった連絡・監視システムも広まっています。しかし負の側面を重くとらえ、少しでも対処しようという姿勢が、日本では見られません。
大人の責任で何とかしなくては!
依存状態にある子どもを何とかしたいと思っても、通信の相手との関係もあり、親だけで止めさせるのは難しく、社会の問題として対処する必要があるといいます。できる限り自分や家族に対しては曝露低減のために自衛しつつ、依存症への対処は公共の課題であると、大人の責任として社会に対し声を上げ、自治体でも法的にも使用規制などに早急に取り組むことが必要だと強調されました。
今後も機会を作って、さらに多くの地域の人たちと問題を共有していきたいと思った学習会でした。
*ヨーロッパでは、12歳以下には広告の禁止、6歳以下には販売禁止やイヤホンマイクとセットでなければ売らないとした国や、過剰な使用を戒めている例もあります。ベルギーでは、昨年7歳以下に携帯電話の販売の禁止、14歳以下に広告やテレビCMの禁止を決め、携帯電話の販売業者に機種のSAR値(電磁波の人体への単位時間当たりの吸収エネルギー量)表示を義務付けたそうです。